そんな資格ないって解ってる。だけど、



INVOKE





取っ組み合いの末、アッシュからようやくローレライの剣を無理やり奪い取った。
突き飛ばされてバランスを崩したアッシュは、ジェイドが抑えててくれた。

────剣を掲げながら考える。

アッシュは何で生命を賭けてまで瘴気を消そうとしたんだろう。
俺はレプリカで、あいつは被験者だ。
死ぬなら劣ってる俺の方なのに、あいつは頑なに心中役を譲ろうとはしなかった。
死にたくないって、言ってたのに。
俺達、どっちも死にたくなんてないのに、自分から死のうとするなんて馬鹿みたいだよな。

────剣を掲げながら考える。

でも俺はやらなくちゃ。俺がやらなきゃいけないんだ。
俺と大勢のレプリカ達が犠牲になれば、瘴気は消える。
そうなれば、もっとたくさんの人達が助かるんだ。
アクゼリュスの罪滅ぼしにすらならないことなんて解ってるけど、この血まみれの両手でも出来ることがあるなら、
俺は。

────剣を掲げながら考える。

レプリカ達が次々と光に包まれていくのが見える。
”犠牲にしてごめんなさい” そう思ったけど、口には出来なかった。
あの人達は、まだ塔に辿り着いていない同胞達のために逝く覚悟を決めたんだから。
俺が謝ることは、最大の無礼に当たるんだと思う。

だから、せめて。

「────みんな、生命を下さい! 俺も……俺も消えるからっ!」

せめて俺もみんなと一緒に消えます。
許してくれ、なんて絶対言わない。言えない。

「ルーク! やめて!!」

遠くでティアの悲鳴みたいな叫びが聞こえた。
あいつのあんな必死な声、初めて聞いた。
……あぁ、そうか。消えたら、もう二度と会えないのか。

”私はティア。どうやら私と貴方の間で、超振動が起きたようね”

あの綺麗で澄んだ歌声も、

”貴方が犠牲になったおかげで瘴気が消えたとしても……、私は貴方を憎むわ”

凛とした強さを持った青い瞳も、もう二度と。
ちくしょう、何でこんな時にばっかり思い出すんだよ。

「来るな!」

こんな未練たらたらな顔、見せたくない。
ホント最後までだせーな、俺。
駆け出したティアは、俺に届く前にガイの逞しい腕で引き止められた。

「……ガイ、ありがとう……」

小さく押し殺すように呟くと、ガイは背を向けたまま苦々しく、馬鹿野郎が、とだけ言った。
それは罵倒の刃じゃなくて、ダアトの教会での時と同じ親愛の誡めだったから、今の俺には何よりも痛かった。
……くそ、何で涙が出るんだよ。

だって、俺がやるしかないんだ。俺が死ぬしかないんだ。それが一番いいんだ!
ならいい加減納得しろよ、認めろよ。
お前も覚悟決めたんじゃなかったのか、ルーク・フォン・ファブレ!





でも、でも、死にたくない。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!

せっかく今まで抑えてきたのに、一度願い出すと止まらない。

死ぬのは怖い。消えるのは怖い。この先に未来が何もないのがたまらなく怖い。
どんなに理屈を固めても、心は結局正直者だった。

そうだ、俺は……俺はここにいたい!



────俺は生きていたいんだ!!




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