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この話は、『さぁ、騙し合いgameの始まりだ!』の続編となる、いわゆるスレルクのお話です。
大丈夫な方はこのままスクロールをお願いします。


















「さあ……『愚かなレプリカルーク』! 力を解放するのだ!」

ヴァンは陶酔するように高らかに、俺に命令する。
しかし、俺の体にもセフィロトにも、何も変化はない。

「……起動パスワードを誤ったか?────愚かなレプリカルーク!」

予想外の事態に呆けていたのは一瞬で、すぐさま命令の再実行が出来たのはさすが神託の盾の主席総長サマか。
問題があるとすれば────

「何度やっても同じだよ、 ”師匠” 」
「!」

それは、最後までこの俺の正体に気づかなかったこと。

「 ”それ” は俺には効かない。俺に命令できるのはこの世でたった一人、俺だけだ」
「貴様……ルークではないのか?」
「俺はルークだ。アンタが大好きな被験者サマのレプリカ。……ハッ、自分で造っておいてよく言うよ」
「……、何を知っている?」
「アンタとそう大差ないことさ。なぁ、ユリアの第七譜石を詠んだヴァンデスデルカ殿?」

ヴァンの目が驚愕に歪むのを見るのは実に愉快だった。
この時点でヴァンが第七譜石を詠んだことを知っている人間は何人いるだろうか。
本人と……リグレット辺りは知っているかもしれない。
ローレライ、というか星の記憶は人間じゃないからその範疇には入らないが。

「何も、アンタが持つ情報を全て握っている訳じゃない。逆に言えば、アンタの知らない情報も握ってる訳だけど」
「それで貴様は何を企んでいる?」
「企む? 冗談は止してくれ。この世の全てをレプリカにしようだなんて考えてる奴に言われたくねーっての」

それも、自分のためじゃなく ”人類の未来” とやらのためだって言うんだから、とんだ偽善者だ。
この世に生きている大半は被験者だってのに、誰が望むんだか、そんな世界。
その点では、俺も他人のことは言えない訳だが。

「……そこまで分かっているなら話は早い。私の仲間にならぬか? 私にはお前の力が必要なのだ」
「クク……仲間にならないか、だって?」

この期に及んで、まだそんなことを。
それを理解した瞬間、心の底から湧き出るような哄笑が広いセフィロト全体に響き渡って反響した。

「────ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
「……何がおかしい」
「アンタの愚かさにさ、ヴァン。事ここまで来て、まだ俺を説得出来るとか思ってるその生温い思考!
 ギャグだろ?ギャグ以外にありえねーよマジで!」

あまりの可笑しさに、嗤いすぎて腹がよじれそうになる。
本当にギャグだったら、座布団の一枚でも進呈してやりたいくらいだ。

「あー腹いてぇ……。あれ、なに固まってんの。もしかしてマジでマジだった?」
「…………」

もはや無言の圧力で俺を睨み付けるしかないらしい。
俺は哄笑を止め、代わりに冷笑を以てヴァンを見下してやる。

「今まで、この私を謀っていたという訳か」
「お互い様だろ。アンタに騙されてると知った上でアンタを騙し返すのはなかなか楽しかったぜ?
 ……ま、俺がこれから遭うはずだった運命に比べれば、これくらいのハンデは有りだよなぁ」
「その知識、一体どこから手に入れた?死霊使いか?」

またまた見当外れのことを言い出したヴァン。まったく、無知は罪だ。
どこまで俺を笑わせてくれれば気が済むのだろうか。
もっとも、この男が持つ情報の中で一番相応しい人間が奴なのは確かだから、仕方ないのだが。

「違うよ。ジェイドだったら今頃ここに飛んできてるか、もっとマシな対策立ててるだろうな。
 そんなことも分からないアンタにヒントを与えてやる。
 さてクイズです、俺の音素振動数は誰と同じでしょーか?
 1.俺、 2.アッシュ、 3.ロー……」
「────ローレライだと……!いや、そんな馬鹿な……」

戸惑うヴァンは無視して、俺は淡々と続ける。

「生まれた時から声は聴こえてたんだけど、切っ掛けはコーラル城か。こればっかりはアッシュに感謝しなきゃな」
「アッシュ? ……私に無断で行動を起こしたあの件か」
「そ。フォンスロットを開いたことで、アッシュだけじゃなくローレライとの回線もより繋がりやすくなったってこと。
 何たって ”存在を同じくする者” なんだから、当然だな」
「……ならば、星の記憶も知っているのか?」
「もちろん。何も知らなかったら、俺はアンタに騙されたまま玩具のように使い捨てられて、このアクゼリュスで
 死んじまう予定だったからな。そんなのは御免だね」
「だとしたら、どうする?ここで私を止めてみるか?」

あくまでも挑発的な態度を見せるヴァンに、俺はそれ以上に凄惨な笑みで応えてやる。

「心配しなくてもアクゼリュスはきっちり滅ぼしてやるよ。
 どの道、パッセージリングが障気に汚染され過ぎて、この様子じゃ後3日も保たない。
 その間にあいつらに何とか出来るとも思えねーし。住民の避難は……ま、遅かれ早かれってことで」
「貴様……正気か……!?」
「だからアンタに言われたくねーよ。俺の狂気とアンタの狂気、どちらが先に世界を滅ぼすか競争でもするか?
 それも楽しそうでいいかも……チッ、」

突如、頭蓋に反響するように頭の奥がズキズキと痛み、舌打ちする。
アッシュが回線を開いてきた証だ。
セフィロトに来る前から何度も忠告という名の命令をしてきたから、今度もそんな内容だろう。
たとえ俺がマトモだったとしても、得体の知れない六神将に従ってやる義理なんてないのは考えれば判るだろうに。
仮にも元王族のくせにそんな常識もないなんて、他人のことを屑呼ばわりする資格ないんじゃねーの?

『止めろ屑っ! アクゼリュスを滅ぼすつもりか!』
「あのさぁ、お前……。いい加減、自分の立場理解してから物を言えよな。じゃあな」
『待て!まだ話は、』

これ以上の問答は無駄だと悟り、自分から回線を遮断する。
屑、ね。俺を見下し侮っている、優越感に満ちた言葉だ。
ハッ、だったら、屑は屑なりに足掻いてやろうじゃないか!

ようやく頭痛も治まってきたので、お待たせ、とヴァンに向かって軽く手を挙げる。

「今のはアッシュか?」
「そうだよ。さ、続きをどうぞ」
「……貴様は一体、何のためにそんなことを?」
「俺のために決まってんじゃん。偉そうなゴタク押し付けようとしてる偽善者のアンタと一緒にするなよ。
 それに、どうせ短い命ならやりたい放題やってから死にたいしな。
 ────俺を認めない世界なんて、完膚なきまでに粉々に滅ぼし尽くしてやるよ!」

宣言したその時、洞窟の入り口の方から俺を呼ぶ声と複数の足音が聞こえた。

「ルーク!」
「何だ、もう来ちまったのか……。興醒めだ、井戸端会議はここまでな」

俺はそれだけを言うと、意識を集中させて両手をセフィロトへ向ける。
体の中にある全てのエネルギーを手の平に収束させるイメージを描く。
やがて両手には周りに浮遊する記憶粒子とは異なる光が宿り、その輝きがパッセージリングを音素ごと
分解させていくのが感じられる。

「これは……!?」

驚いたようなジェイドの声。はは、まさかアンタのそんな声が聞けるとはな。
さすがの死霊使いにも知らないことはあるらしい。

やがてパッセージリングは完全に消滅し、その空洞から毒々しい色をした何かが少しずつ漏れ出てきた。
────障気だ。

「……ッ!?」

それを確認し、超振動を沈静化させた途端、急に体に力が入らなくなって俺は地面に倒れた。
地面だけでなく視界もぐらぐら揺れているのは、慣れない力を使った反動だろう。

「ルーク、大丈夫!?」

ティアが必死な形相で駆け寄ってきた。
生憎、答えたくとも口を動かす筋肉すら動いてくれない。
異常なほど体がだるく、酷い耳鳴りが鼓膜を支配する。眠気まで襲ってきた。

ティアの腕の中で、そういえば、とヴァンの姿を探すが、すでにどこにも居なかった。
ついでに上から目線の被験者サマも居ないから、きっとヴァンが連れて逃げたのだろう、とぼんやり思う。
……どうでもいいか。

思考と共にとろとろと沈んでいく瞼を何とか持ち上げながら、せめて意識の続く限り惨状を目に焼き付けた。

俺はこの光景を憶えておかなければならない。
目を背けることは許されない。
これから背負っていくために。





────これが、俺の引き起こした罪なのだから。




狂宴序曲を奏でよう






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