────ねえ、ちゃんと聞いてる?



虹色




今日は、よく晴れて気持ちがいいわね。
真っ青な世界の中に、譜石帯が点々と太陽の光に反射して、まるで真昼の星みたい。
貴方が綺麗だって微笑んだあの日の空に似て……、ちょっと? なんて顔してるのよ。
……そ、それは私だってロマンチック過ぎる表現だと思ったけれど……。
いいじゃない、たまには。ね?



今日は、グランコクマでガイに会ったわ。
貴族院のお仕事がいよいよ本格的になってきて、なんだか忙しそうだったけれど。
それでも、きちんと合間を縫ってお茶に誘ってくれるところがガイらしいでしょう?
きっと大佐やピオニー陛下に扱き使われているんでしょうね。
……何怒ってるの?
……ああ、はいはい。でも、男の嫉妬は醜いわよ?



今日は、アニスとフローリアンが訪ねて来てくれたの。
わざわざユリアシティまでよ?久々に纏まった休暇が取れたんですって。
アニスは初代女性導師になるって今でも奔走してるし、フローリアンもアニスの手助けをしてるそうよ。
二人とも、最後に会った時よりすごく大人びていて驚いたわ。
特にフローリアンは、時々イオン様のような落ち着いた表情をするの。
……そうね、生きていらっしゃれば、きっと良い兄弟になっていたかもしれないわ。
……分かってるわ。私が悔いてもイオン様が悲しまれるだけだものね。



今日は、ユリアシティのお仕事でピオニー陛下に謁見して来たわ。
現状の報告とか、今後の方針を使者としてお伝えして……、ふふ、大丈夫よ。
隣には大佐がいらっしゃったから、陛下が好からぬことをしようとしたら笑顔で黙らせていたし。
……ちょっと可哀相になったのは内緒よ?
大佐と言えば、随分と昇進して今では小将だそうよ。今までの癖でつい大佐って呼んでしまって困ったわ。
二階級特進なんて笑えない冗談です、なんて言って、皮肉は相変わらずで安心したけれど。



今日は、キムラスカ王室────ナタリアから手紙が来たの。
キムラスカの情勢も安定してきたから、いよいよアッシュと結婚するんですって。
ふふ、なんだか私達まで嬉しい気分になるわね。
ナタリアを王族と認めない貴族もまだ少数いるらしいけれど、ナタリアなら必ず実力で認めさせるって信じてる。
……ええ。今まで苦労した分、ナタリアには幸せになって欲しいと思うわ。
式は1ヶ月後だそうだから、今から用意をしておかないと。
……ねえ、やっぱり神託の盾の制服じゃ駄目かしら……?
こういう場に相応しいドレスなんて持っていないし……え、駄目よ、よりによってナタリアに借りるだなんて!
そりゃあ、物欲に乏しいユリアシティに貸衣装屋がある訳もないけれど……。
そうね、じゃあ明日にでも、バチカルに行って衣装を見に行くことにするわ。お祖父様に休暇をもらわないと。
……え、一緒に?別に構わないけど、貴方の分は子爵の正装があるんだから十分で……、
………………………………ばか。そういうのは本番に選ぶものなの!
もう、乙女心がちっとも解ってないんだから。
……しょうがないわね、試しに着るだけよ?






























「……ねえ、ティアおばあちゃん、寝ちゃったの?」
「そっとしておやり。おばあちゃんはね……お空の向こうの綺麗なところへいってしまったんだ」
「それって遠いところ?もうここにはいなくなっちゃったの?」
「すごく遠いところさ。今ごろ、おばあちゃんの大好きなひとにも会えているかもしれないな」
「大好きなひと?」
「そうだよ。おじいちゃんも、ジェイドおじいちゃんもアニスおばあちゃんも、キムラスカの王様もお妃様も。
 みんなみんな大好きなひとさ」
「ふぅん。じゃあおばあちゃんは、きっとしあわせなんだね」
「ああ……そうだといいな」





それは、淡い夜更けの最期の夢物語。





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