ルークがユリアシティで倒れてから、もう3日の時が過ぎた。
とりあえず私室に運んだはいいが、一向に目を覚ます気配はない。
今も彼は静かにベッドに横たわり、身じろぎ一つすることもなく眠ったままだ。
シティの医師に見せたところ、大きな精神的衝撃を受けたため、脳が一時的に昏睡状態に陥っているらしい。
それは確かに ”精神的衝撃” には違いない。自分の正体がレプリカだなんて聞かされて────
「ティアさん、ティアさん。ご主人様、まだ起きないですの?」
泣き出しそうにミュウがこぼした声で、ハッと我に返る。
「……、ごめんなさい。私には分からないわ」
これで何度目の問い掛けだろうか。
あれだけ常々主人からいじめられていたというのに、この青い聖獣はどこまでも健気だった。
誰もが見捨てた朱い焔を、今もたった一匹で懸命に心配している。
「ねぇミュウ、何で皆と一緒に外殻大地に帰らなかったの?」
形式はミュウに対してだったが、本当は自分自身に訊ねるべき質問だった。
(……どうして、私はここにいるの?)
お祖父様に今後の相談をするためとはいえ、為し得る時間は十分にあったはずなのに、私はしなかった。
それは何故……?
「ボクのご主人様はルーク様ですの! それにご主人様が起きた時に、誰かがそばにいないと寂しいですの」
「……そう。ミュウは優しいのね」
「ティアさんも優しいですの。何日もご主人様の看病をしてくれてますの!」
「ありがとう、でも私は……そんなんじゃ、ないわ」
どこまでも純粋なミュウの目を真っ直ぐに見ていられなくて、言いながら視線を逸らす。
私は────私は、迷っている。
本当に、このまま彼を切り捨てていいものかどうか。
目覚めた彼はどこへ行くのか。何になるのか。
あの時のように罪の重さに耐え切れず逃げ出すか、或いはその全てを背負い一歩を踏み出すか。
「……どちらにしろ、ルーク次第というところなのかしらね……」
────ならば私は、結果を見届けよう。
彼を生み出し利用した男の妹としての義務もあるのは確かだ。
人形同然だった彼。けれどその中に垣間見えた、確かな優しさ。
私は、もう一度それを信じてみたい。
「ティアさん、何か言ったですの?」
「……何でもないわ。それより、今日こそ目覚めるといいわね、ルーク」
「はいですの!」
無条件にルークを信じているミュウ。それは揺るぎない絶対の信頼。
どんな時も自分を信じてくれる存在は、きっと何より代えがたい支えになるだろう。
願わくば、傍にあるあたたかさに彼が気付きますよう。
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